オンデマンド印刷の入稿How to:浴野英生氏#4

今回は、デジタルオンデマンド印刷の理解のため、オフセット印刷で使われている印刷機や入稿仕様との違いなど、小ロット出版を始める際に知っておきたい基本的な技術面についてお伝えします。

オフセット印刷とデジタルオンデマンド印刷の違い

現在出版物の一般的な印刷方法であるオフセット印刷は、印刷用のデータ完成後に刷版を制作し、折りごとに印刷、断裁、折り、丁合、製本といった工程で本を制作します。
印刷する部数に関わらず製版代などの固定費がかかるため、少部数印刷の場合割高になりますが、大量に印刷することで1冊あたりの単価を下げることができます。

一方でデジタルオンデマンド印刷は、デジタルデータから版を作らずに直接プリンターで1冊ずつ出力するので折りや丁合の工程も不要です。
版代という固定費がかからないので1冊から印刷できますが、大量に作っても単価はオフセットのようには下がりません。

品質については、デジタルオンデマンド印刷が出始めた当初と比べると、最近の印刷品質は大きく向上しており、オフセット印刷と比較しても遜色ない仕上がりの書籍をつくることができるようになりました。

デジタル印刷機の種類と特徴

デジタル印刷機には、大きく分けて2つの印刷方式があります。

トナー方式

コピー機のようにドラム状に画像を静電気で形成し、その上にトナーを乗せて用紙に転写する方式です。トナーには粉体と液体があります。主にシート状のカット紙(枚葉)を使用します。

【特徴】
・熱でインクを定着させるため、紙の水分と乾燥の具合によって本に波打ちが出ることがありますが、しばらく置いておくと収まります。
・コントラストのはっきりした印刷となります。墨文字はくっきり黒く、カラー写真も色にメリハリがつきます。
・インクを定着させる際にオイルを使うので写真などに特有のテカリを感じることがあります。
・一般的な印刷用紙であれば、ほぼ対応可能です。ただし、凹凸のある用紙には不向きです。

■インクジェット方式

微細なノズルから液体インクを直接吹き付ける方式です。ロール紙(連帳)タイプが主流で、高速の商業印刷によく用いられます。

【特徴】
・インクの定着に熱を使わないので、本の波打ちはありません。
・トナー方式に比べ、オフセットに近い色調で、色の諧調はきれいに出ます。
・平滑でない凹凸のある用紙にも印刷可能です。
・書籍用のロール紙の種類が少ないので、出版で使用できる用紙にかなり制限があります。

現在、書籍の印刷では、使える用紙や単発の印刷が多いこともあり主にトナー方式が使われています。しかしトナー方式に比べ、高速で回せるロール式インクジェット機も書籍用紙の標準化がすすみ、コンテンツをまとめて印刷できるようになれば、コスト的に有力な選択肢になるでしょう。

印刷の仕上がりについては一長一短ありますが、品質自体はどちらも遜色はありません。
また、デジタル印刷機械は、毎年新しい機能/性能が出続けており、課題と思われていることも日進月歩で改善されていることもお伝えしておきます。

デジタルオンデマンド印刷に対応した入稿仕様について

デジタルオンデマンド印刷は、入稿されたPDFデータをそのまま印刷するため、オフセット印刷の入稿仕様とは異なる点があります。
次にその違いを念頭において、オンデマンド出版の入稿について記します。
また、それぞれの項目に付記として事例や追加情報を記します。

表紙・カバー

・表1表4を見開きで背幅をつけデータ作成、裁ち(二重)トンボは必須です。
・背幅は使用する本文用紙によって束が変わりますので、業者にお問い合わせください。
 在庫カバー流用の場合は、原本の紙厚に合わせた用紙を手配することも可能です。
・オフセットのように墨版で特色指定はできません。
・オンデマンド印刷ではCMYKでフルカラーを表現するため、特色(DIC) での印刷ができません。特色の場合は、CMYKの4色分解近似値で入稿してください。
・RGBも色域が違うのでCMYKに変換して入稿してください。
・色の調整は印刷現場では出来ないので、入稿データ自体の色修正が必要です

-付記
・表紙やカバーは本の顔です。そのため色校を見たい希望もあるでしょう。色校を出してくれる業者もありますが、別料金になります。
・色校をとるくらいの厳密な色調整をする場合は、印刷機によっても差が出ますので、本紙・本機校正を推奨します。
・電子書籍をPDF化する場合、表1と表4が本文の前後についているだけのデータで入稿される場合がありますのでご注意ください。


見返し

・原則、表2表3に糊で貼らない本文共紙の遊び見返しになります。
・遊び見返しもデータとして前後に1枚分(2頁)白ページを入れてください。
・本見返しもオプションで可能な業者もあります。その場合は見返しのデータは不要です。

-付記
・見返しはもともと本の耐久性を増強するもので、上製本には必ずつけます。並製については製本技術の向上で耐久性というよりは見栄えのためにつける意味合いの方が強いです。
・表紙を開けていきなり扉や目次にしたくない場合は、共紙で白ページを1枚追加すると良いでしょう。前後セットでなく前見返しだけでも構いません。

・原則本文共紙で、本文と一緒に1ファイルで入稿します。別丁対応は業者に相談してください。

-付記
・別丁でレザックなどエンボス加工した用紙は印刷がかすれる場合がありますので注意が必要です。
・別丁扉の代わりに扉だけ4色にする方法もあります。

本文

・裁ち(二重)トンボ付き
・遊び見返しなどの白ページを含めて全頁を単頁で1ファイルにして入稿します。
・2色は墨+マゼンタまたは墨+シアンで、墨+特色は2色ではなく4色扱いになります。
・背景がある場合は3mmの塗り足しが必要です。
・見出しやノンブル等に小口まで伸びた網掛けや罫線がある場合も、背景同様3mmの塗り足しをつけてください。
・フォントは埋め込み(推奨)、またはアウトライン化(一般的なフォントでない場合)
・オフセットの印刷データ流用で、オーバープリントの設定がある場合は解除してください。

-付記
・印刷は大きな用紙に印刷した後、まとめて断裁して仕上げます。紙面の端の部分まで色や写真が入るデザインの場合、データ上で紙面ギリギリの所までで作成してあると、断裁の際にほんの僅かなズレが生じただけで、用紙の色(白地)が出てしまう可能性があります。それを想定し避けるため、仕上がりサイズの外側まで若干(3mm程)余分に色や写真の幅を広げておく必要があります。

・PDFデータが電子書籍からの転用でトンボがない場合、背景が白色(ノンデザイン)なら、センター合わせという印刷方法があります。

・自費出版に良くあるカラー写真が随所に挟まれている原稿は、オフセットのように口絵でまとめるなどする必要はありません。著者の希望ページにカラー写真を入れることができます。デジタルオンデマンド印刷の得意とするところです。


製本

・判型は文庫サイズからA4判まで
・無線綴じ
・束幅は50mm以下ですが、製本機によって多少の差があります。
・上製本は対応できる業者もありますので事前に問い合わせてください。
・入稿データは本文の総ページ数が偶数になるように作成します。

-付記
・無線綴じで背表紙にタイトルなど文字を入れる場合、背表紙の背幅は3mm以上を推奨しています。背幅が3mm未満だと文字がよみづらく、印字がわずかに背表紙からずれたりする可能性があります。本文のボリュームが少ない場合は、背表紙には文字を印刷しないほうがきれいに仕上がります。

・束幅50mmというと、四六70㎏(100μ)で1,000ページ以内ですが、用紙の厚さを薄くすることも可能です。
・通常の無線綴じのほか、本の開きが良いPUR製本にも対応する業者もあります。楽譜や子供、障害のある人のため中綴じで金属ピンを使用したくない場合に利用されています。

この記事も次回で最終稿となります。次回はデジタルオンデマンド印刷を活用した出版のライフサイクルマネジメントや、これからの出版のあり方などについて考えていきたいと思います。

―追記

ラボネットワークが提供している10部からの小ロット書籍印刷サービスでは、上記に記載した2種類の印刷機や、印刷仕様についてはほぼ網羅的に対応が可能なようです。また、ここに記載がない仕様の書籍でも、多様なネットワークを駆使して見積もり対応をしてくれます。ご興味あれば一度問い合わせしてみてください。

(第5回に続く)


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