こんにちは。社会保険労務士法人アイプラスの代表社員の今井洋一です。
近年「働き方改革」という言葉がニュースや雑誌・新聞の紙面を賑わしていますが、
6回にわたり「働き方」(従業員定着・教育など店舗運営に欠かせない人材話)について、お話をしていきたいと思います。
2回目の今回は経営者にとって頭の痛い悩みでもある残業代について考えてみましょう。
私がミスしてしまったことが原因の残業なので、残業代は要りません。
人件費が高騰しているこのご時世、労務費の上昇は、どの会社も悩ましい問題と思います。
しかも、理由が「仕事のミスを挽回するための残業」と聞くと、腹立たしい感情が芽生える経営者の方も、少なからずいらっしゃると思います。
そんな中、従業員より「今回の残業は、私のミスが原因なので、残業代をいただく訳にはいきまん。」という申し出があった場合、会社としてどのように対応すればいいのでしょうか?
法律と雇用契約には優先順位がある。
本人が残業代の辞退を申し出ており、会社も残業代を払いたくないとなれば、労使の間で利害が一致しています。
お互いに合意をしているなら、残業代を支払わなくても良さそうですが決してそうではありません。実は、雇用契約や法律には優先順位があり、今回の残業代の返上のように労使間で合意した内容であっても、労働基準法などの法律で強制されている内容については、合意が認められません。
具体的な優先順位は、民法>労働基準法>労働協約>就業規則>個別の労働契約の順番となっており、上位の労働条件を下回る条件は締結することができません。ただし、残業の割増率を法律で決まっている25%を上回る50%とするというように上位の法令を上回る労働条件の場合は認められます。
※「労働協約」とは労働組合が使用者と対等な立場で決めた取り決めですので、労働組合のある企業しか締結ができないものです。また、「労働協約」は残業をするために締結が必要となる「36協定」に代表されるような「労使協定」とは、名称が似ていますが、まったくの別のものになります。
ですので、今回のケースにあるように従業員から残業代の返上の申出があり労使で合意していたとしても、雇用契約よりも上位にある労働基準法で割増賃金の支給が求められていますので、割増賃金を支払なければなりません。
無断の残業は、勝手に料理が出てくるようなもの
前回のコラムにも書きましたが、「働く」とは、使用者と労働者の間で「雇用契約」が成立している状態で、雇用契約とは使用者の指揮命令に従う代わりに賃金が支給される契約です。
指揮命令があることが前提ですので、指揮命令権者である上司の知らないところで勝手に残業したとしても、指揮命令に応じた労働の対価である残業代の支払は発生しえません。
しかし、この点が難しいところで、本当に従業員が頼んでもいないのに勝手に残業をしていたのか、具体的な指揮命令をしてないが会社が残業を黙認していたのか判断がつきにくいもので、未払い残業代のトラブルでも無断の残業なのか否かは、しばしば論点になります。
会社を守るためにも、万が一に備え、指揮命令にもとづいた残業なのか、そうでないのか証明できるよう、残業は許可制とするのが得策です。制度を導入するにあたって
(1)就業規則に残業は申請制であることを明示する。
(2)残業をする場合は、事前に残業申請書を提出してもらい、事後に残業の内容と仕事の実績を確認する。
(3)仕組みを作ったら三日坊主とせず仕組みを継続させることをやっていきましょう。そうすることで、万が一未払い残業代を請求されたとしても、残業は命令していないと客観的に反論できるようになります。
未払い残業代などのトラブルは「上司がきちんと見ていなかった」ことが原因であることも少なくありません。経営者や管理職の立場の方であれば、部下の仕事を管理することも大切な仕事になります。
※ラボネットワークメールマガジン2019年3月号の記事を再掲