「フォトグラファーは料理人である」
写真はカメラがあれば誰だって撮れる。フォトグラファーは誰にでもなれる。
そんな時代だからこそ、本物の「料理人」を目指していくべき。
前回は料理を作るにも、まずはその料理の味、完成したかたちを知ることから始めるのが良いというお話をしました。
今回は実際に料理をしてみようという話をお届けいたします。
念の為今回から初めてご覧になる方のために申し上げますと、写真の話ではありますが、料理に例えて考えると分かりやすいのでは?という私の発明した画期的な表現から、このような伝えかたで進んでおります。
訓練が習慣になり、それはやがて自然にできるようになる
さて、私が写真を撮っているウェディングの現場では、いろいろなカットバリエーションを撮影しています。
例えば、新郎新婦の背景には遠くまでピントのあった景色を含んでいて、その日の撮影のダイジェストと言えるようなバチっときまった1枚から、歪んだ構図で、ピントも後ろに飛んでいるような、まるで咄嗟にカメラを構えないと抑えることができなかったような、瞬間的に出た二人の笑顔というような写真も、その日撮るたくさんのピースには含まれています。
歪んでいてもブレていても、それは故意に撮影した写真であり、全てのカットにおいてアルバムを作る上で必要な要素を含んでおり、また撮影そのものを楽しんでもらえているお二人の記録として必要なカットでもあるわけです。
ここで、前回にお話した内容を踏むのですが、全てのカットにおいて、咄嗟の瞬間であっても、私の脳内では持っているイメージとの答え合わせを行っているのです。
今日までこの世界で撮影をしている私にとっては、もう瞬間的に脳が勝手にそう動くといいますか。
訓練が習慣になり、それはやがて自然にできるようになるというモハメド・アリの格言に迫る域にあるわけです。きっとそんなフォトグラファーもたくさんいらっしゃると思います。
何を伝えたいかと言うと、つまり、インプットしたイメージから、事前に「光」や「ポーズ」、「全体的なデザイン」というように、そのイメージが持つ「要素」をバラバラに分解した見方ができるスキルを持てば、その場の雰囲気や新郎新婦さんの雰囲気に合わせ、インプットされたイメージから使える要素を当てはめる作業を行えるようになるということです。
良いイメージをたくさんインプットする、そしてそれを限りなくその絵に近い絵を撮ろうとするのも良いですが、「使える部分を使う」という考えかたをするわけです。
例えば、
「あの時見た写真のポーズ、背景は違うけど今の雰囲気に合うかも」とか、
「今の夕焼けあの映画のシーンの露出を再現したらばっちりハマるかも」
という具合に。
つまりそれは、インプットに対し、アウトプットということです。
アウトプットは、まんまそのイメージを再現する使い方も良いですが、それを構成する要素ひとつですら、クリエイティブな現場においては重要な「使える道具」になるということです。
これが今回お話しようと思っていたフォトグラファーとして大切なスキルの紹介です。
わかりましたでしょうか・・・・。
分解された要素を再構成して作り上げる
さて、お待たせ致しました。
料理に置き換える文字数に到達致しました。
実際のお話ですが、私は一駅隣に住む同僚と帰路につくことが多い日々を送っています。
腹を空かせた私たちの話題は、もっぱら美味しそうなご飯の画像を探しながら帰るという、側から見るとまるで次の休みに一緒に行くディナーを探す、それはまるでカップルかのように。
ちなみに私も彼も40過ぎのオッサンです。
そんなある日、疲れきって妻に頼まれた夕飯の材料調達を故意に忘れ家に帰ると、
前の晩のおでんの残りと、その日が消費期限の豆腐と、
買い物を故意にしなかったことに激怒している妻が私の帰りを待ってくれていました。
目の前にある残り物の材料から作れるご飯は何か。
そこで私はピンときました。
帰りの電車でインプットできていた、「とうめし」*(ぜひググってみてください。)を作ることにしました。
ここで重要なのは、「とうめし」のレシピを知っていたこと。
以前に「とうめし」を紹介されたとき、目を伏せたくなるほど美味しそうなそのシンプルなご飯について、私はその味を知りたくてレシピを調べていたのです。
残りものの材料を使うという状況に立たされた時、そのレシピの入った脳内の引き出しを開くことができたということです。
結果、斜めになった妻の機嫌を垂直に立て直し、あまりものの食材も生まれ変わり、
今では我が家のスタメンレパートリーとなりました。
見た目だけ知っていても、あの日とうめしを作ることができなければ、今頃妻の機嫌は地面と並行になるくらい横向いていたかもしれません。(あ、念の為、実際は「とうめし」は一晩寝かすほうがおいしい食べ物です)
とにかく、前回お話したインプットは、要素を分解して脳内にストックするということ。そして、今回のアウトプットは分解された要素を再構成して作り上げるということ。
これを理解しておくということが、写真を撮る上ではとても大切だと思っています。
さて次回はスパイスの使い方のお話です。