大企業と戦うために:山下 亮氏 #3

メーカーに直訴するために社長に就任し、決死の直談判で何とか今のサービスの許可を取り付けたものの、”フラッグシップ機のメンテナンスライセンスの停止” という条件付きの船出となった話を前回書かせていただきました。(#2)


1番難易度が高く、1番シンボリックな機種のメンテナンスをどこよりも得意とするプロ専門のメンテナンス会社、という分かり易いスタートが切れず、これでどうやってこれからメーカーとの差別化を図っていくのか?

こんな弱小零細企業のライバルがあの巨大企業でした。

というのも大袈裟な事ではなく、プロカメラマンほどメーカーに直接メンテナンスの依頼をするので、我々のターゲットである「プロカメラマン」と完全に被っていました。

嘆いていても仕方ありません。もう我々には元請け会社はおらず、自ら集客しなければいけません。背水の陣で臨むために他の下請けや孫請け仕事も既に全て断ってしまっていました。

死に物狂いの中、僕は三つの本に出会います。

一つは「ランチェスター戦略」、もう一つは経済学者ドラッガーの「マーケティングとイノベーション」、そしてザッポスの「感動的な顧客体験と企業文化」についての著書でした。

まず、ランチェスター戦略とは「弱者が強者と戦う方法」だと書かれていました。正に我々です。

ドラッガーは「企業の目的は顧客の創造である」と書いていました。それをおこなう為にマーケティングとイノベーションが必要なのだと。マーケティングとは「勝手に売れる仕組みを作ること」でありイノベーションとは「陳腐化したものを組み替えて新しい価値を創造すること」要するに”付加価値”です。

ザッポスのCEOトニー・シェイは、それらによってどの様な「体験」を生み、それを企業の文化とするか?を書いていました。

全てを自分の環境に置き換えてみました。

ランチェスター戦略では、強者と戦う場合、勝ち目のありそうな所に総力を集中させ「一点突破」を狙います。そのジャンルで1番を目指すのです。例えその市場が小さくても “1番になれる場所” を探せと書いていました(僕はそう解釈しました)。

我々はそこは「プロカメラマン専門」として絞り込みました。その当時まだあったコンパクトカメラやエントリーモデルの在庫を全て無くしプロ機材の在庫を完璧に拡充させ納期を短縮することが出来ました。今では代替え機も用意しています。

次に「顧客の創造」です。プロカメラマンをターゲットにする場合、メーカーと被ってしまいますが、その中でも「更に手厚い顔の見える対応」を求めているニーズに着目しました。

この時、自分が入社当時メーカーに出向させて貰ってサービスセンターで研修した際の記憶が蘇りました。当時はまだ今程カメラの市場が大きく無く、サービスセンターもアットホームな雰囲気でした。お客さんは来店されるとお気に入りの技術者の名前をカウンターで伝えて呼んでもらいました。「◯◯さーん!◯◯様というお客様がご来店ですよ!」なんて声が作業場に届き、技術者が個別に対応していました。

あの頃、たまたま可能だったアットホームな個別対応はお客様目線で考えれば必ずニーズがある。また巨大になった大企業には出来ない対応で「新たな顧客」を創造出来るのでは無いか?と考えました。

最後にザッポスの「感動的な顧客体験と企業文化」です。これは我々の仕事である”修理業”が基本的にネガティブな仕事であるということを前々から僕は感じていました。

誰もカメラが壊れてニコニコして持ち込むことはありません。たとえ直ってもプラマイゼロ。僕らがどれだけ頑張っても誰も喜びません。それが当たり前でした。これを変えたいと前から思っていました。

ザッポスはコールセンターに自由な裁量を与えて数々の伝説的なエピソードを作りSNSで絶賛されクチコミによって一気に知名度を上げた靴のオンラインショップです。例えば時間制限無しに納得いくまでお客様の電話対応をする、ザッポスに在庫が無い靴を売ってる他のサイトを教える、有名なのは祖母へのプレゼントで買った靴がキャンセルで返って来た理由を聞いたスタッフが皆でカンパを集めて花を送りました。そのお婆さんは靴の到着前に亡くなったからです。

お客様のニーズと効率は全く反比例します。

企業は「そんなことやってたら潰れる」と言いやるべきことをやりません。”お客様目線”と言いながら本当に顧客目線な会社は稀です。

“非効率” にこそユーザーのニーズがある。それを実践し、その「こころ」を企業文化にしようとしたのがザッポスでした。

僕は旧いバイクや車が好きで、今も1976年式のVWビートルに乗っています。壊れるのは残念ですがその度に工場でメカニックとあーだこうだやり取りするのが楽しみだったりします。

「壊れたのに嬉しそうだね」と良く言われました。「これだ!」と思いました。

【プロ専門キヤノン専門】とキヤノンを使う全てのジャンルのプロカメラマンだけに注力し、非効率であっても、とことんユーザー目線に立って「あったらいいな!」を実現し、機材が直るか?幾らで直るか?では無い、プロ同士の駆け引きという “体験” を売ろうと思いました。

又、これは1番大きな顧客創造ですが、修理会社から「メンテナンスとチューニング会社」への転換も目指しました。

世界の多くのプロと呼ばれる世界には、そのプロを支えるプロがいます。料理人の包丁を研ぐプロ、美容師のハサミを研ぐプロ、カーレースやバイクレースのプロメカニック。

写真業界だけ、メーカーのサービスセンター、もしくは販売店の下請け修理会社しかありませんでした。プロカメラマンの使う機材をカリッカリにチューニングしたプロ仕様の機材に”チューンナップ”し、それを専属でメンテナンス(維持管理)する。

世界でどこの会社もやったことの無いことでしたが、これなら新しい顧客の創造が出来、競合も無くオンリーワンになれる。

そしてそれを広め、求められる様にするマーケティング手法はSNSによる「クチコミ」でした。

足掻いた中で読みまくった中から引っ掛かった三冊の本が、我々の未来に大きなヒントを与えてくれ、散らばっていたピースがバチッ!と揃った感じがしました。

次回はその世界初の「プロによるプロのためのチューニングとは?」をお話します。


※ラボネットワークメールマガジン2021年4月号の記事を再掲

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