前回は、試行錯誤の上やっと定まった「プロの、プロによる、プロのためのメンテナンス&チューニング」というサービスが生まれるまでの事を書かせていただきました。
今回はこの “プロ専門のメンテナンス&チューニング” というものがどんなものなのか?を書こうと思います。
PDA GALLOPは今のサービスを始める前はキヤノン専門の下請け会社でした。昔はビデオからコンパクトカメラも修理していましたが、年々ハイスペックな一眼レフの修理を任されるようになり、メーカーが修理の内製化にシフトし、我々の仕事が無くなった頃にはほぼプロ機材のみの委託となっていました。
ですのでそもそもキヤノン製のプロ機材に精通していたのですが、ただ、現在の「プロ専門のメンテナンス&チューニング」とは大きく違うことがありました。それは「メーカー規格」で修理をしていた、という事です。
我々はメーカーになり代わり修理を代行している訳ですから、修理精度の規格はメーカーと同じで無ければいけません。その修理精度は基本的には「工場出荷時」と同じとなります。当たり前ですよね?サービスセンターに修理に出したら、買った時よりも精度が良くなって返って来たとしたら、皆買ったらまずは保証期間中にサービスセンターに機材を修理に出してしまいます。
ですので、高い技術力も必要ですが、やり過ぎてもいけなかった訳です。
ちょっと分かり難いかも知れないので説明しますと、例えば一眼レフカメラのAF精度にとって非常に大切な精度の中に「フランジバック値」というものがあります。これは「マウント面からセンサー面までの距離」のことを言い、キヤノンはこの長さが44mmです。カメラを工場で組立てる際にメーカーは工員の方々に「マウント面から44mmにセンサーを取付けて下さい」とお願いします。ですが、44mmとは44.000mmを指すのか?44.0000mmを指すのか?が分かりません。ですので、そこはもっと具体的に「44mmから1000分の何十ミリまでの誤差で取付けてください」という様に明確に指示が出されます。これが「メーカー出荷規格」です。メーカーの下請け時代は我々はそれを徹底的に守ることが求められました。
ここに我々は目をつけました。自動車レースに出場しているレーシングマシンは、一見街で売られている市販車の形をしていますが実は全く違います。時には新しく違う材質で作られたり、何にも問題は無いのに一旦バラバラにされて、再度精密に組み上げられていたりします。そしてその後の調整も徹底的におこなわれる事により、市販車とは「別物」の様なポテンシャルを発揮します。
具体的には、カメラは前述したフランジバック値を1000分の何mm以下(ミクロンの単位です)という自社規格で組み直します。そして一から全ての精度を再調整します。レンズは機種によってどれくらいまで描写力が上がるのか?は経験値が無いと分かりませんが、我々はずっとキヤノンのプロ機材ばかり修理してきたのでそれを熟知しています。機種別のベストな精度にするべく、普通に動いているレンズでも一旦バラバラに分解して再調整し、ポテンシャルを引き出します。
良くある集合写真の雛壇での撮影などで、二列目の真ん中にピントを合わせて絞って全列を撮影する手法がありますが、この際、ピントを合わせた二列目の一列は全員ピントがきているのに、後ろの列になっていくに従って両端のピントのバランスが崩れてくる、という事が良くあると思います。しかし、ピントを合わせたのは二列目ですから、基本は二列目全部にピントが来ていればそれは問題にはなりません。しかし我々は完全に芯の出たレンズにチューニングする事でピントを合わせた所以外の「ボケ領域」のバランスも取ろうとしています。これは非常に手間と技術、経験が必要な作業です。
そして最後にメンテナンスしたボディとレンズを実際に取付けて実写テストをおこない、お預かりした個体同士の僅かな相性の誤差まで調べ、細かく微調整します。これは弊社オリジナルのチューニング「ピント・マッチング」として登録商標も取っている手法です。
ここまでくるとこれはメンテナンスでは無く「完全オーダーメイド」の機材を作る、というレベルです。そして担当者がカルテを書き機材と一緒に発送します。納期はプロの仕事に合わせて中3日。診断書は保存し、次回のご依頼の際にはそれを元に診断し、必要な物は未然に交換をお勧めします。プロのカメラマンの機材を市販品とは別物の様に研ぎ澄まし、それを維持していく。これが「プロの、プロによる、プロのためのメンテナンス&チューニング」です。
プロの機材でも大手量販店でお金さえ出せば誰でも買える時代になりました。そんな時代にプロとしてのプライドを守って貰いたいと思っています。そしてそれは我々のプライドでもあります。
次回は弊社のスローガンでもある「常に考える。なぜだろう?から仕事は始まる」をテーマに書かせていただきたいと思います。
※ラボネットワークメールマガジン2021年5月号の記事を再掲