写真フイルムの隆盛
1980年代写真フィルムを製造できるメーカーは世界的に見てもそれほど数は多くなく、皆さんがご存じのメーカーとしては、イーストマン・コダック(以下、EK)、富士写真フイルム、アグファ・ゲバルト、小西六(社名は当時)くらいだったと思います。
これは、フィルムが多くの化学物質で構成され、かつ複数層に渡る精密な塗布技術が必要だったため、参入障壁が非常に高かったと思われます。
自分は世に出るメインのカラーネガフィルムの設計に、を一から携わることができ、非常に勉強になりました。
EKが開発したディスクフィルムのOEM用フィルムにも携わりました。これはフォーマットが小さく、画質設計(粒状性と鮮鋭性のバランス)にも苦労しました。さらに現像も回転現像という非常に特殊な機器での現像で、ディスクフィルムの処理機器を見たことがある方はあまりいらっしゃらないかもしれません。
1980〜2000年はアナログ写真がもっとも伸びた時代でもありました。
これはフィルムだけではなく、本格オートフォーカス一眼レフカメラの登場と同時にモータードライブ内蔵の相乗効果でカメラも急激に進化したためだと思われます。
ちょっと余談ですが・・・
1979年発売の世界発のオートローディングカメラであるコニカFS-1はモータードライブ内蔵でしたが、オートローディング時のトラブルが多発したということです。が、当時135フィルムのきちんとした形状は規格化されておらず、このカメラの開発時に各メーカーに呼び掛けてフィルム形状を統一し、JIS規格の改定までこぎつけたとのことです(後にISO規格にもなります)。
その後、1983年にEKからCASコード(日本ではDXコードと呼ばれることが多い)が規格化され、カメラから感度、撮影枚数等が自動的に検知できるようになり、一気に135フィルムが使いやすくなったことも、カメラの普及、フィルム消費量の増加になったと考えられます。
また、135フィルムはパトローネに「カートリッジバーコード」や現像後にフィルムに現れる「潜像バーコード」が採用され、カメラ側だけでなくラボ機器側でも、フィルムメーカー、感度、フレームナンバー等が読み取れる様になり、自動化に大きく貢献するようになったのもアナログ写真が大きく伸びた理由だと考えられます。
残念ながら、写真フィルム生産量は2000年をピークに減少に転じます。
一方、写真フィルムを使わないカメラの方は、アナログ信号を記録する「電子スチルビデオカメラ」が1980年代に登場し、1995年前後から次々とデジタルカメラが登場し始めます。
デジタルカメラは必然でもあったと考えています。
冷戦時代の初期の偵察衛星は銀塩フィルムで撮影され、それを回収して現像・プリントされていました(1980年代もフィルムの偵察衛星は使われていたようです)。フィルムを回収せず、写真データを電送することが最も求められていた、初のCCDカメラを搭載した米の偵察衛星(KH−11)は1976年に打ち上げられたようです。
こうなるとコンシューマ用にコンパクト化・低価格化するのは時間の問題ですね。
世界初のデジタルカメラは、同時期の1975年にEKによって開発されたようです(記録は磁気テープ)。世界初のデジタルカメラ発売は1990年Dycam社の「Dycam Model 1」のようです。
1993年、富士写真フイルムから発売された「FUJIX DS-200F」を皮切りに日本国内でもどんどんデジタルカメラが販売されるようになりました。
撮像からデータ作成
デジタルカメラの場合は、アナログカメラのフィルム(光を感じるのはその中のハロゲン化銀)に相当する部分を、光を感じる半導体が担っています。
初期の頃は、CCDイメージセンサが使われていましたが、最近ではCMOSイメージセンサが多用されています。CCDもCMOSも光を感じるのは、フォトダイオードと呼ばれている素子ですが、信号の読み出し方法が異なっています。
銀塩フィルムは、通常縦方向に上から青(B)、緑(G)、赤(R)の光に感じるハロゲン化銀が配置されています。
実際には、Bは高感度、低感度の2層、GRは高感度、中間度、低感度の3層構成になっていることが多く、感度と画質向上(粒状性や鮮鋭性)に寄与しています。
デジタルカメラのCCDイメージセンサやCMOSイメージセンサは、縦方向に素子を並べることができないので、平面に撮像素子(フォトダイオード)が並べられています。
撮像素子自身は、RGBの光を見分けられないので、素子の前にカラーフィルタが配置されています。人の目は緑色に関して感度が高いので、EKのブライス・ベイヤー氏が発明したベイヤー配列といって、BRのフィルタに対し2倍のGフィルタを配置した構造になっており、この配列構造は現在も使われています。
銀塩フィルムは、単位面積当たりでRGBを同時に受光できるのに対し、デジタルカメラは4倍の面積を必要とし、さらにモザイク状に受光するため、近接する同色フィルタの信号から補間する方法を取っています。
写真のフィルムは撮影後、統一された規格(カラーネガフィルムだとEKが開発したC-41プロセスが基準となっています)の現像を行なえば像が出てきますが、デジタルカメラの場合は各素子の信号を増幅、ノイズ除去、モザイク状の画像を補間(デモザイク処理)、その後各メーカー色を出す画像処理が施されます。
この処理が各CMOSイメージセンサやデジタルカメラのメーカーの腕の見せ所となっています。
最終的には、カメラ側で保存できる画像ファイルは、JPEGだったりRAWデータですが、そのファイル生成までの処理は多様です。
JPEGは圧縮形式の一つでISO規格で規定されていますが、実際の実装系はバラバラで処理系によって異なっているのが実情です。
現在は、Exif画像ファイル(JPEGにメタ情報を追加した規格)が主流となっています。
JPEGデータの作成方法についても、プリントを意識したカメラの適正感度、適正解像度を選択することが重要です。
解像度に関しても、高解像度で撮影し、後でリサイズ(縮小)すれば良いという考え方には賛同しかねます。
拡大や圧縮のアルゴリズムも各種ありますが、ソフトの実装系はバラバラで、画質に影響するものも多いです。
JPEG、TIFF、PDF等はISO規格で規定されていますが、規格の全てを網羅する実装は無いと考えた方が良いです。
次回以降もよろしくお願いいたします。