デジタルオンデマンド印刷の活用事例
今回は、デジタルオンデマンド印刷を活用して利益を出す具体的な事例を紹介します。
事例①オンデマンド印刷で重版!ニッチな業界の資格試験問題集
最初に紹介する成功事例として、「1,000部以上は売れないだろう」と営業が判断した、ニッチな業界の資格試験問題集の例があります。
これまでは初版のみで重版は行わず、取り置き在庫と返品でやりくりしてきました。しかし小ロット印刷が普及していく中で、オフセットでの初版を600部まで減らし、それ以降は200部、100部、50部と徐々に部数を減らしながらオンデマンド印刷で重版をした結果、過去最高の1,100部以上の実売で利益をあげることができました。
従来は対応ができなかった、売れ行きが好調な書店への補充や、客注に対し迅速に本を提供できるようにもなり、多くの方に本を届けることが可能になりました。必要な時に必要な部数を適切に供給できた結果が、売上の最大化と廃棄をしなくてはならない本の最小化となったそうです。
事例②初版はオンデマンド印刷を活用!趣味性が高い実用書
初版はオンデマンドで本を作り重版でオフセット印刷をする、といった逆の活用パターンもあります。これは趣味性が高い実用書の事例です。
刊行当初は、自社サイトとネット書店のみの販売予定だったため、初版分をオンデマンド印刷で200部刷り、以後は100部ずつ増刷をしていました。その後、口コミなどで評判になり、一般書店での販売も決まり、1,000部をオフセットで印刷し、市場に投入することができました。
もともとが小ロット出版での定価設定をしていたため、1,000部刷ることによって原価率は大幅に下がり、想定していなかった利益があがりました。
このように、ターゲットを絞った販売や、マスセールスの前のテストマーケティングとしてオンデマンド印刷を活用し、大きな成功を収める事例もでてきています。まさにオンデマンド印刷だからできる、新しい出版の事例と言えると考えています。
事例③文庫本のデジタルオンデマンド印刷への切り替え
年間何百点と文庫本を出している出版社の例です。こちらでは、万単位の初版や重版はオフセット、1,000部程度の重版はデジタルオンデマンド印刷へと切り替えました。
オンデマンド印刷は製造原価がやや高くなりますが、物流費や返品で生じる在庫管理費、あるいは過剰在庫の処分費などをトータルで考えると、小ロットで必要な数だけを重版で刻む方が、オフセットでの大ロット印刷よりも、最終的な利益は出せるとのことです。
文庫なので用紙などの仕様が規格化されている点も利益を生み出せる一つの要因です。カバーなどの付き物は初版時にオフセットで印刷した在庫を流用し、印刷方法が変わるだけで装丁も造本も変わらないので、奥付表記に刷数が追加されるだけの修正となります。
これまでの初版を全部売り切る前提で書籍の原価率を計算し販売計画を立てること(しかも希望的観測のもと多めに)は、出版業界全体が好調だった時代には問題のない、よくある手法でした。しかし出版不況と言われる状況や、SDGsの観点もあり、現在では本のライフサイクルマネジメントの視点からも、綿密な出版計画を立てることが必要になってきています。そう言った意味でオンデマンド印刷の活用が、改めて見直されるようになってきたと実感しています。
既刊本の小ロット重版で利益を出す方法
現在、多くの出版社が切望しているのは、重版ができない本を必要な数だけ小ロットで重版をすること…かと思います。次にそのような既刊本の重版でどのようにオンデマンド印刷を活用できるのかを紹介します。
方法①本身だけ印刷して、カバーなどの付き物は在庫を流用する
本としては品切れしているが、カバーや帯などの付き物在庫がある場合は、本身のみオンデマンド重版をして、付き物在庫がある限り小ロットで刻んでいきます。
オフセットと比べ原価率は上がりますが、付き物を流用することで利益は出ます。
これが最も容易な小ロット重版の方法です。
在庫のカバーや帯を利用する場合の背幅合わせについては、オンデマンド印刷会社とご相談ください。原本と近い紙厚の本文用紙を用意してくれる会社もあります。
付き物在庫が無い場合(そもそもスリップはもう不要とする出版社が増えつつありますが…)は、小ロットでカバーの作成ができる印刷会社もあります。その場合、製造原価が上がるので売価を上げるのも一つの方法です。「(改訂・増補)新装版」として装丁を変えれば、値上げのハードルは低くなります。
新装版にする場合には新たにISBNコードを付与する必要がありますが、売価を変えるだけの場合は、ISBNコードの変更は不要です。
方法②書籍の直販を活用する
一般書店で流通させるほどではないが、採用や客注対応がある本については、直販商品としてホームページやSNSにて告知をする方法があります。
直販用として装丁を変更し、カバーは付けずにオンデマンド版として、再版している事例もあります。これは、カバーデータを表紙データに編集しなおし表紙化しています。印刷時にPP加工すれば、原本と比較しても安っぽさを軽減できます。
この場合は新装版同様、ISBNコードの変更が必要なのと、奥付に「オンデマンド版」という表記があると良いでしょう。
それまで重版出来ず、1冊も売り上げに貢献できなかった本が年間数十冊でも売れるようになれば、まさに眠っていたコンテンツを活用することとなります。
印刷データがない書籍の重版
重版ができない理由として、印刷データがないというご相談を受けることがあります。
30年以上前に刊行された本で毎年数冊、数十冊程度ずつ売れて続けているような書籍が該当します。この場合は底本スキャニングという方法を活用し、重版しているケースがあります。
10年前、20年前と違ってスキャニング機器の進化もあり、本文が墨文字のみであれば原本と遜色ないスキャニングデータ(画素数600dpi)が作成できます。
一部、平網でモアレが出る場合や色調が正確に再現できない場合もありますが、底本の印刷やスキャニング機器の違いによって変わりますので、事前に印刷会社でサンプルを確認されると良いでしょう。最近では4色カラー印刷したカバーさえもスキャニングすることがあります。
初回入稿時のみスキャニング代がかかりますが、以降は印刷製本代しか費用はかからないので、定価変更も考慮に入れトータルで利益が出せるようすると良いでしょう。
(第4回に続く)
・重版をすると、初版で出した利益が無くなってしまう…
・重版はしたいが、在庫を余らせるリスクがある…
こういった理由から、重版を見送りにした経験はございませんか?
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