デジタルオンデマンド印刷に対する意識改革:浴野英生氏#2

小ロット出版は印刷料金が高い?

デジタルオンデマンド印刷の出版(以下、オンデマンド出版)における一番の課題は制作価格です。
ある出版社の社長は、「オンデマンド出版の料金がもう少し下がれば、(自分たちもそちらにシフトして)一気に広まるのだが・・・」と言っていました。
従来、書籍において製造原価は約30%と云われてきました。それは重版で利益を上げれば良いという時代の考え方です。
しかし、昨今の出版不況においては、重版できないことを前提に、初版から利益を取るため25%あるいはそれ以下という製造原価が設定されるようになりました。
その分書籍の販売価格(定価)が上がるのであれば良かったのですが、長引くデフレ基調のなか、出版も制作コストを抑える方向で進んできました。
当然オフセットで500部、1,000部印刷した時に決めた販売価格からすると、オンデマンドの小ロット印刷で同等の原価率を維持することはとてもできません。
本体価格が2,000円以上の本でも35%~45%くらいの製造原価率になります。
そのため、「オフセットと同等とはもちろん思わないが、考えていた以上に高い」と捉える出版社は少なくなく、小ロットオンデマンド出版がなかなか普及しない原因になっています。
ただ、そこにとどまっているだけでは、状況は改善しません。

デジタルオンデマンド印刷のメリット・デメリット

では、オンデマンド出版をうまく活用している出版社はどのようにしているのでしょうか。今回はその事例を挙げて説明したいと思います。
その前にオンデマンド出版のメリット/デメリットを簡単に整理しておきます。

<メリット>
1、必要な数だけ印刷できる。
2、折丁が不要のため、1/4色のページを自由に組み合わせられる。
3、文字修正や資料の差し替えが簡単にできる。

<デメリット>
1、オフセットに比べて制作料金が割高になりやすい。
2、用紙や製本方法などの仕様に制限がある。
3、特色やRGBカラーはそのまま印刷ができない。

とある出版社のオンデマンド印刷への取組み例

冒頭で「オンデマンド出版の料金がもう少し下がれば・・・」と紹介した出版社は、オンデマンド印刷を活用していくにあたり、どんな本を小ロットで印刷するか?を整理しました。

新刊からか?重版からか?については、本当は品切れ重版未定の本が沢山あるので、必要な数だけ小ロットで重版をしたいのですが、売上と手間を考慮し先ずは新刊から手をつけていくことにしました。

また新刊のなかでも、装丁や用紙などの造本にこだわる本と、その他の一般的な仕様の本に区別し、後者から優先してオンデマンド印刷を活用することにしました。

まず使用する用紙は印刷会社と相談し、オフセット・オンデマンドどちらでも印刷が可能な用紙を使うことにし、カバーと表紙はコート紙、本文は白かクリームの上質紙としました。扉や見返しは原則として本文共紙とし、本見返しの場合もファンシーペーパーなどは使わず、色上質紙としたそうです。こうして仕様を絞ることで、より製作費を圧縮する効果を期待してのことでした。

また、用紙を共通にすることの狙いは、重版する際に、初版の際に多めに作成しておいたカバーなどの付き物在庫を流用し、本身のみをオンデマンド印刷を活用しての小ロット重版で刻んでいく計画でした。

しかしながら取組み当初は、どの編集者も従来通りのこだわりを持った本づくりの企画ばかり出してきたそうです。第1回で書いたように、編集者にとって本は自分の作品のようなものなので、オンデマンド印刷を見込んだ本づくりは安っぽく感じたのかもしれません。

オンデマンド小ロット重版の意外な効果

そこで会社は改めて方針を定めました。

オンデマンド印刷用に仕様を統一した本は「品切れを起こさない、長く売り続ける」という点で、これからの出版を考える上で重要と位置づけ、徐々に社内の意識を変えていくことにしました。

営業的には50部や100部での小ロット重版が可能になることは、販売部数の見込み違いを起こしたときのリスクヘッジとなり、倉庫在庫の経費軽減にもつながりました。
それは出版物の企画・製造・販売・在庫を最適化するという、ライフサイクルマネジメントの考え方に近づくことでした。

一方、編集者の意識が改革されるうえで大きかったのは、ネット書店Amazonでの販売状況でした。従来のこだわりを持った本づくりの場合は、慎重に重版をかける判断をせざるを得ず、その分印刷依頼をするタイミングが遅れ、Amazon上での品切れや取り寄せ期間の表示が長くなりがちでした。しかし、オンデマンド印刷を活用した本はすぐに重版ができるので、常に在庫有り表示となりました。

最近ではリアル書店の在庫を気にするよりも、Amazonでの在庫や売れ行きをチェックする著者が圧倒的に多いため、Amazonで品切れになった途端に編集者へ補充や重版の催促連絡が、著者本人から入り、結果として意識改革の後押しとなりました。

著者は自分の作品を読者に読んでもらうことを最優先に考えます。よって仕様にこだわるよりも、品切れさせないことを編集者へ要望するため、品切れリスクの少ないオンデマンド印刷を活用した本づくりにシフトしていく様になったとのことです。

(第3回に続く)


・重版をすると、初版で出した利益が無くなってしまう…
・重版はしたいが、在庫を余らせるリスクがある…
こういった理由から、重版を見送りにした経験はございませんか?

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