技術をどう継承していくか?フォトグラファーの未来:西村 一光氏 #6

「1億総フォトグラファー時代でも求められるプロの写真」として令和の時代のプロフォトグラファーのあり方についてお話させていただいてきましたが、今回が連載の最後となります。
今回はフォトグラファーの未来についてお話させていただきたいと思います。

今まではフォトグラファーになるためにはプロに弟子入りするなどして技術を学んできたものですが、カメラの性能があがって技術的なハードルが低くなった今、アシスタント等を経験しないでプロとして活動するフォトグラファーが増えてきています。

この傾向は今後さらに加速していくと思われます。

ジャンルによってはそれでもほとんど影響はないと思いますが、私がメインとしているコマーシャルフォトの世界では年々きちんとライティングができる若手のフォトグラファーが減っていっている印象があります。

もちろんトップレベルの世界では今後もずっと高い技術が継承されていくと思いますが、平均的なレベルのフォトグラファーにも同じように技術を継承するのにどうしていけばいいか?

答えとしてはYoutubeやオンラインセミナー等を活用して熟練のプロフォトグラファーが技術を広く開放していくことなのではないかと思います。

既に海外のフォトグラファーはかなりの数の動画を載せているのでかなりのジャンルの撮影のやり方がネットには流れています。
商品撮影であれば、アイテムごとにどうやって固定をしてライティングをして、レタッチをどうするかといったところに至るまで、人物撮影でもどんな画角のカメラでどう撮っていけばよいのか。

ほとんどすべてを動画で知ることができてしまいます。一見、技術を開放することでライバルを増やしてしまうように見えるのですが、技術をクローズにしていることでスキルの低いプロフォトグラファーが多くなってしまうと、プロフォトグラファー全体のブランドが下がり、クライアントからするとプロにお金を払って依頼する意味がないと感じさせてしまうので、プロフォトグラファーはやはりすごい!と思わせるだけのブランドを築くことで全体として利益があるのではないかと思います。

そしてそもそもの撮影という仕事についてですが、カメラ技術が発展していくとジャンルによってはほぼオートメーション化してフォトグラファーが必要なくなる場面も多くなると思います。

例えば商品撮影等は既に自動で360度撮影、その画像をそのままレタッチするところまで自動化されているシステム等が存在し、通販サイト等で活用されています。

またモデル撮影に関してはセルフタイマーでモデルがポーズをとるだけ、といった形まであります。セッティングが固定されたECの撮影であればそれでも十分撮影ができてしまいます。

今までもお話してきていますが、既に写真を撮るだけのフォトグラファーは必要ない時代にきていて、今後それがさらに加速していくと思います。そうはいっても最終的に判断をするのは人間なので、何をどう撮るべきなのか、そこを判断して、撮影という作業ではなく写真の中身を考えられる人、考える能力そのものがフォトグラファーの能力になる時代が来るかもしれません。

そして写真の発表の方法やマネタイズも変化していっています。

単純に「1件あたりいくら」というやりかたで仕事を得ること自体から少しずつ変化が起こっています。

例えばSNSで広く知られているフォトグラファーであれば、媒体用に撮り下ろすのではなく、逆にフォトグラファーのSNS自体が媒体になり、クライアントがそこに掲載のフィーを払って掲載してもらう形で広告が成り立ちます。

例えば個人のファッションブロガーが世界で人気になり、権威あるブランドのファッションショーに招待されてどの媒体よりも早く最新のファッションを紹介するなどといった動きがありますが、ここにおいてはブロガーがファッションモデルであり、フォトグラファーでもあるという現象が起きています。

特定の分野に強いフォトグラファーであれば、逆に自分の得意分野を発表することで収入を得る道もあるのではないかと思います。

写真作品を販売したいということであれば、ストックフォトなどで販売する方法、また作品や動画の閲覧数を応じて広告収入を得るなど、さまざまな方法で収入を得る方法があります。

音楽の世界では自分の部屋で録音した音楽が世界で大ヒットするような現象が起きていますが、写真の世界でも同じようなことが起こっていくものと思われます。


長々と話してきましたが、今後も業界を取り巻く世界は常に変化していきます。

状況に甘んじず常に変化に対応して、写真の本質を常に見ながら変化していけるフォトグラファーだけが生き残っていけるのだと思います。

私も今後も様々なことに挑戦してフォトグラファーでありたいと思っています。
全6回の短い期間でしたが、ご購読いただき本当にありがとうございました。


※ラボネットワークメールマガジン2022年1月号の記事を再掲

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