デジタルオンデマンド印刷と出版:浴野英生氏#1

日本の出版は、これまでオフセット印刷による大量印刷モデルでやってきました。しかしながら近年の出版不況や電子書籍の登場で紙の本が売れづらくなり、出版社は対応に苦慮しています。
本稿では、デジタルオンデマンド印刷による小ロット出版に焦点を絞り、オフセット印刷では難しかった対策が、どのように取れるのかをできるだけ具体的に5回にわたって述べていきます。小ロット出版に興味があるけれども、どうしたら良いのか迷っている出版社の課題整理に少しでも役に立てれば幸いです。

デジタルオンデマンド印刷の登場

デジタルオンデマンド印刷が日本の出版界に登場したのは、1999年に出版取次のトーハン、日販が1冊から受注生産するオンデマンド出版事業を立ち上げたのが最初と言われています。
当時は、印刷用デジタルデータなどはなく、元となる本(底本)をスキャニングして作成したデータを印刷して本にしていました。今でも印刷データのない古い本は同様にしています。
主に絶版や品切れのまま重版できないでいる本の客注対応用でしたが、スキャニング技術やデジタル印刷機の性能がまだまだで、品質はあまり良いものではありませんでした。
その頃の印象が20年後の今でも残っていて、オンデマンド印刷というとそれだけで敬遠する出版社は少なくありません。もちろんこの間の技術進歩は劇的で見違えるような高品質になっています。現在のデジタル印刷の品質については別途ご説明いたします。

品切れ重版未定本にビジネスチャンス!?

印刷品質の他にオンデマンド出版が敬遠されたのは、編集者が著者に対してオンデマンド出版の許諾を取るのを面倒くさがったことも要素の一つでした。
私が出版社の営業をしていた頃です。少なからずあった品切れ重版未定の本は、お客さんの注文を断るたびに申し訳なく思うと同時に営業的にももったいないなと感じていました。そんな時にオンデマンド印刷を知り「これは使えるのでは!?」と考えました。
早速、品切れ本のうち重版できるほどではないが定期的に客注がある本のリストを作り、担当編集者に相談をしました。

品切れのままでいるより、著者はどんな形であれ読者に読んでもらいたい

ところがどの編集者も反応が鈍く「営業が著者の了解を取ってくれれば構わないよ」程度でした。
上製本はもちろん、並製でもカバーや帯がつかないペーパーバックで用紙も選べない。しかも定価は高くなる(当時は原本の2.5倍の値付けが推奨されていました)というのが大きな障害になりました。
それでもその本を必要としている読者がいる限り、ちゃんと届けるのが出版営業の仕事だと思っていたので、先ずは著者に電話をしてみました。
すると、どの著者も電話一本で、サンプルも見ずにオンデマンド本を作ることを快諾してくれました。品切れのままでいるよりは、どんな形であれ読者に読んでもらいたいというのが著者の気持ちでした。読者も同じ気持ちだと思います。結局リストアップした10点はすべてオンデマンド本化することが出来、著者にも喜んでもらいました。自ら10冊単位で購入される著者もいたほどです。

日本の出版界に残る、造本へのこだわり

ただ編集者は、担当した本は自分の作品という気持ちが強く、造本にこだわりを持っているために、書かれている内容が変わらなくても同じ本だと思えず心理的になかなか難しいものがある様でした。
売上げ的にも、注文があっても説明が必要で直販が中心のため著者サービスの枠を超えるものではありませんでした。
そんなわけで品質的にも営業的にもデジタルオンデマンド印刷は、日本の出版社にとってはまだまだ利用価値の高くないものの時代が続いてきました。
一方海外では、ライトニングソース社(米国出版流通大手、INGRAM CONTENT Group の印刷子会社)が、出版社や書店からの注文にデジタル印刷機で印刷・製本をし、24時間以内に出荷するビジネスモデルが出来上がっています。
日本でもアマゾンPOD(プリントオンデマンド)が1冊からの注文に対して自社工場で印刷し出荷するというサービスを行っています。
どちらもカバーや帯がつかないペーパーバックであることなど仕様に制限があり、日本の出版では主流になりえていません。


次回からは日本の出版界におけるオンデマンド印刷の課題や期待について、事例を交えて報告いたします。
なお、出版におけるデジタルオンデマンド印刷については、比較的新しい技術のため用語などもバラバラで、まとまった知識を得ることがまだ難しい状況です。その中では『出版のための デジタルオンデマンド印刷ハンドブック』(一般社団法人電子出版制作・流通協議会刊)が用語の統一やワークフローの整理を行っていますので、本稿と合わせて読まれると良いと思います。

(第2回に続く)


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